大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)2962号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人三野昌治上告趣意について。

金融緊急措置令は金融統制上の秩序を維持するため、金融機関に対する罰則を規定したのみで一般預金者に対する罰則を設けなかったことは所論のとおりである。しかし、原判決の認定したところは、被告人が判示銀行係員に対し、費用、事務員の氏名等につき不実の記載をした封鎖預金支払請求書を恰も真正なものゝように裝って提出して支払を求め行員をその旨誤信せしめて判示名義の下に現金計一六七万七千四百九一円七七銭を交付せしめて騙取したというのであって、同令によれば封鎖預金等については、預金者は、所定の條件に基き支払を請求する場合の外支払禁止の解除される迄その支払の請求を爲す権利を有しないものであり、從って銀行その他の金融機関は支払解除に至る迄支払を爲さざる利溢を有するものであるから、被告人の判示所爲に因り判示銀行に被害なしといゝ得ない。されば、被告人の判示所爲は、刑法詐欺罪を構成すること多言を要しないから、原判決がこれを詐欺罪と認め刑法二四六条第一項を適用したのは正当であって、原判決には所論の違法は存しない。それ故論旨一点、二点ともその理由がない。

次に、原判決は、被告人の所爲を金融緊急措置令違反としたものではなく、刑法詐欺罪に問擬処断したものであるから、金融緊急措置令に改廃があっても、被告人の刑法上における詐欺の罪責に影響を及ぼすべき理由はない。されば、論旨三点も採ることができない。

よって旧刑訴四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例